三人称一元視点とは|一人称・三人称・神視点の違いを同じ場面で比べる
三人称一元視点は、地の文では人物を「彼」や名前で呼びながら、心の中に入るのは一人の視点人物だけに限る書き方です。小説の視点はほかに、語り手が「私」や「僕」として物語の中にいる一人称視点、場面ごとに視点人物を替える三人称多元視点、全員の心の中を知っている語り手が語る神視点などに分けられます。
見分け方の知識より、自分の作品でどの視点を選ぶかに役立つ話を中心にしました。真ん中の例文では、同じ場面を四つの視点で書き直しています。
ひと目でわかるポイント
- 視点は「誰が語るか」と「何を知ることができるか」の二つで決まります
- 三人称一元視点は、三人称で書きながら一人の頭の中にだけ入る視点です
- Web小説やライトノベルは、一人称か三人称一元視点で書く作品が多いと言われます
- 視点を替えるのはかまいませんが、場面の中で黙って替わると視点のブレになります
小説の視点の種類
視点を分けるときの問いは二つです。語り手が「私」「僕」「俺」として物語の中に出てくれば一人称、語り手が外にいて人物を「彼」や名前でしか呼ばなければ三人称です。そのうえで、語り手が誰の心の中まで書けるかで分かれます。
| 視点 | 誰が語るか | 何を知ることができるか | 長所 | 制約 |
|---|---|---|---|---|
| 一人称視点(主人公) | 主人公の「私」「僕」 | 自分が見て聞いて考えたこと | 心の中を直接伝えられるので入り込みやすい。語り口がそのまま文体になる | 自分がいない場面と、他人の心の中は書けない |
| 一人称視点(脇役が語る) | 主人公のそばにいる人物の「私」 | 自分が見た主人公の言葉と行動、それに自分の考え | 主人公を外から見せるので、謎めかしたり距離を置いたりできる。ホームズを語るワトソンの形 | 主人公の心の中は推測でしか書けない |
| 三人称一元視点 | 物語の外の語り手 | 視点人物一人が見て聞いて考えたこと | 一人称に近い没入感があり、視点人物の外見や癖も少し書ける | 視点人物がいない場面と、ほかの人物の心の中は書けない |
| 三人称多元視点 | 物語の外の語り手 | 場面ごとに替わる視点人物の心の中 | 群像劇や、複数の勢力が絡む物語を追える | 替わる場所をはっきりさせないと、誰の場面かわからなくなる |
| 神視点 | 物語の外の語り手 | すべての人物の心の中、過去や先のことまで | 多くの人物と広い舞台を一度に扱える | 視点があちこちに移ると散らかり、語り手が全部明かすと緊張がゆるむ |
誰の心の中にも入らず、見える言葉と行動だけを書く三人称客観視点(カメラ・アイ)もあります。ハメットの『マルタの鷹』のようなハードボイルドで知られる書き方ですが、長編をこれだけで通す例はあまり多くないようです。
人称と視点の違い
人称は、語り手が誰をどう呼ぶかです。自分を「私」と呼べば一人称、人物を「彼」や名前で呼べば三人称になります。視点はそこに、語り手が何を知ることができるかを加えた言葉です。だから同じ三人称の中でも、一元視点と神視点に分かれます。
三人称一元視点とは:一人の肩越しのカメラ
三人称一元視点は、三人称単元視点、三人称限定視点、三人称一視点とも呼ばれます。英語の創作論でいうthird person limitedも、ほぼ同じものを指します。
一人の人物の肩の後ろについて回るカメラと考えるとつかみやすいです。語り手は物語の外にいて、人物を名前で呼びます。それでも心の中は、視点人物一人のものしか書きません。
- 一人称との共通点:読者は視点人物が知っている分しか知りません。視点人物が知らないことは、地の文にも出てきません。
- 一人称との違い:「僕」ではなく名前で呼ぶので、人物の口調を地の文全体にまとわせなくて済みます。必要なら、視点人物の外見や、本人が気づいていない仕草も少し書けます。
- 神視点との違い:ほかの人物の心の中には入りません。他人の気持ちは、セリフと表情で見せます。
一元視点の地の文では、視点人物の心の声を「」に入れず、地の文にそのまま溶かして書くことがよくあります。「クレイは目をしばたたいた。土魔法のはずだ。」の二文目がそれで、誰の考えかを地の文が引き受けている形です。
場面や章ごとに視点人物を替える三人称もあります。これが三人称多元視点で、一つの場面の中では一人だけについていき、場面が替わるときに別の人物へ移ります。場面の中で何人もの頭の中を行き来する神視点とは、そこが違います。
Web小説では:一人称と三人称一元視点が多い理由
なろうやカクヨムのファンタジー、異世界もの、恋愛ものを開くと、「俺」や「私」で語る一人称か、主人公一人についた三人称一元視点の作品が目立ちます。ライトノベル寄りのWeb小説ではこのどちらかを選ぶことが多い、と書く創作論もあります。何割と数えた統計はありませんが、連載の読まれ方を考えると理由は見当がつきます。
- スマホで、1話ずつ区切って読まれます。 通勤や寝る前に1話ずつ読む読者は、一人の頭の中についているほうが追いやすいはずです。場面ごとに別の人物の心の中が出てくると、前の話で誰が何を知ったのかを思い出し直すことになります。
- 主人公の体感がジャンルの面白さです。 転生やループ、ステータス画面のように、主人公しか知らない情報が話を動かすジャンルが多くあります。その情報を読者にすぐ渡すには、主人公の視点がいちばんの近道です。
- 引きは、主人公が知らないところで生まれます。 話の終わりで次の話を開かせる場面は、たいてい主人公がまだ知らないものの前で切れます。語り手が何でも知っている視点だと、語り手がわざと言わずにいる状態になり、切りどころが少し不自然になります。
神視点にも出番はあります。登場人物の多い戦記ものや、いくつもの勢力が絡む話では、神視点や、場面ごとに視点人物を替える三人称多元視点のほうが書きやすいこともあります。
例文:判定石の場面を四つの視点で書き直す
TypeTakの講座実例でたどるウェブ小説連載で書いている『黒魔法使いと言われましたが、得意なのは土掘りだけです』の第1話は、主人公クレイが「僕」で語る一人称です。題材は韓国語で書かれた韓国のウェブ小説で、原稿は日本語に訳したものです。タイトルの笑いは韓国語の同音にかかっていて、「土魔法」と「黒魔法」は韓国語ではどちらも「フンマボプ」と聞こえます。第1話は、古い判定石がクレイの属性「土魔法」を【黒…… 魔……】とつぶれた声で告げる場面で終わります。
下の一つ目は第1話の草稿の終わりをもとに短く整えたもので、残りの三つはこの記事の例として新しく書いたものです。一人称の脇役版で、友人のミア・トーレンが試験会場でクレイのすぐ後ろに立っていたという設定も、この記事の例として決めました。
① 一人称視点(クレイ。第1話の草稿を短く整えたもの)
判定石がふたたび鳴った。 【黒…… 魔……】 僕はまばたきをした。 (土魔法) 判定石の発音がまたつぶれたらしい。 試験官の手がゆっくりと下りた。その視線が、僕の顔と判定石のあいだを何度も行き来した。 「今すぐだ。黒魔法適性者の確認手続きを始める」 「待ってください。今……僕の属性が黒魔法だと言いましたか?」
② 一人称視点・脇役が語る(ミア。書き直した例)
判定石が【黒…… 魔……】と途切れたとたん、会場が凍りついた。 前に立つクレイは、首をかしげただけだった。怖がっている顔ではない。計算の合わない請求書を受け取った人みたいな顔だった。 私は判定石に置かれた彼の手を見た。爪の間まで土が入り込んでいる。黒魔法使いの手というより、どう見ても畑から上がってきたばかりの手だった。 試験官が記録官を呼んだ。クレイが口を開こうとするのが見えた。 お願い、今は何も言わないで。
③ 三人称一元視点(クレイについた三人称。書き直した例)
判定石がふたたび鳴った。 【黒…… 魔……】 クレイはまばたきをした。土魔法だ。古い石が、また発音をつぶしたのだろう。 ところが試験官の手がゆっくりと下りた。その視線がクレイの顔と判定石のあいだを何度も行き来する。なぜあんな顔をしているのか、クレイにはわからなかった。 「記録官を呼べ」
④ 神視点(書き直した例)
判定石が【黒…… 魔……】と途切れた。使い古された石には、「土」の最後の音まで出しきる力が残っていなかった。 クレイは当然、土魔法だと思った。試験官は当然、黒魔法だと思った。試験官の頭の中ではもう学院長に上げる報告書の一行目が書かれはじめ、前列の貴族の受験生は、さっき笑ったことを骨身にしみて後悔していた。 その会場で本当のことを知っているのは、判定石だけだった。
勘違いものに一人称が合う理由
この作品は、周りが誤解するほど主人公の評判が上がる勘違いものです。四つを見比べると、視点によって笑いの形が変わるのがわかります。
- ①一人称では、読者はクレイと一緒に本当のこと(土魔法)を知っています。試験官が何を誤解したのかは、手の動きとセリフでしか見えません。読者は誤解の中身にクレイより一歩早く気づき、クレイが「僕の属性が黒魔法だと言いましたか?」と問い返すところで一緒にひやりとします。誤解した側の心の中が空いているので、次の話で埋める材料が残ります。
- ②脇役の一人称は、本当のことを察している友人の目で見ます。クレイの心の中は「顔だった」のような推測でしか出てきません。誤解の後始末をしなければならないミアの焦りが笑いになります。本編をこれで書くより、誤解が広がったあとの幕間の1話に向いています。
- ③三人称一元視点が渡す情報は、①とほとんど同じです。「クレイにはわからなかった」のように、知らないことを語り手が代わりに言えますし、クレイの口調が地の文全体にしみ込むこともありません。
- ④神視点は、誤解の両側を一段落で全部見せます。笑いはすぐ来ますが、試験官と受験生の心の中までもう出てしまったので、次の場面で「どんな誤解だったのか」を明かす楽しみが減ります。最後のセリフで切っても、読者はもう答えを知っています。
勘違いものでよく使われるのは、本編を主人公の視点で書き、誤解している側の心の中は、その人物の視点の場面でまとめて見せる組み方です。たとえばクレイの視点で公開実習を書いた次の話に、その実習を見ていたセラフィーヌの視点の場面を置けば、読者は同じ出来事を二度、二通りの意味で読むことになります。
視点の決め方:書く前に答えておく問い
視点を決めるのは、読者に何を隠すかを決めることでもあります。次の問いに答えを書いてみると、基本の視点と例外が一緒に決まります。
[誰の物語か] 主人公: 読者がいちばん長くついていく人物: その人物の口調が地の文でずっと聞こえてもかまわないか: [何を隠すか] 読者が主人公より先に知るべきこと: 読者が主人公と一緒に遅れて知るべきこと: 主人公が最後まで知らないこと: [主人公がいない場面] 主人公のいないところで、どうしても見せたい出来事: その出来事を、主人公があとで聞く形に変えられるか: 変えられないなら、誰の視点で、何話ごろに: [連載] ほかの人物の視点の場面を置くか: (置かない / 幕間だけ / 場面ごと) 視点が替わるときの印: (◆や*の区切り行 / 小見出し / 話を分ける) [決めたこと] 基本の視点: 語り手が知っている範囲: 例外のルール:
答えに詰まったら、この順番で絞り込んでください。
- 主人公が知っていることと読者が知っていることを同じにしたいなら、一人称視点か三人称一元視点を選びます。
- 主人公の語り口が面白さの大きな部分なら、一人称に寄せます。地の文をもう少し淡々とさせたいなら、三人称一元視点に寄せます。
- 主人公を外から見せたいなら、脇役が語る一人称を考えます。天才や変わり者の主人公を友人が語る話がこの形です。
- 主人公のいない場面が毎話のように要るなら、三人称多元視点か神視点を選びます。
『黒魔法使いと言われましたが、得意なのは土掘りだけです』なら、基本はクレイの一人称です。本物の黒魔法使いバルカンは、最初は土地を腐らせる痕跡としてしか出てこないので、クレイが知らない場面はほとんど要りません。痕跡をいつまた見せるかは、伏線の記事で同じ作品を使って扱いました。
視点の切り替えと視点のブレ
話や場面の単位で視点を替えるのは、よくあるやり方です。困るのは、替わったことに読者が気づけないときです。
視点を替えるとき
- 場面の境目でだけ替えます。◆や*を並べた区切り行、小見出し、話の切れ目のどれかひとつを、作品を通して同じ印として使います。
- 替わった場面の最初の文に、新しい視点人物の名前と、その人がいま見ているものを置きます。「セラフィーヌは実習場の手すりを握りしめた」のようにです。
- 一人称の作品で別の人物の「私」に移るなら、最初の行で誰の「私」かがすぐわかるようにします。Web小説では、話の冒頭に「セラフィーヌ視点」や「― セラフィーヌ」と書き添える作品もあります。
視点のブレ
一つの場面の中で、印もなくこの人の頭の中からあの人の頭の中へ移ってしまうことを、視点のブレや視点の混乱と呼びます。英語の創作論ではhead-hoppingと言います。神視点ももともと何人もの心の中を行き来しますが、語り手の声がひとつにつながっているので、読者は迷いません。視点のブレは、三人称一元視点や一人称で書いているのに、うっかり他人の心の中が混ざってしまう場合です。読者は「いま誰が見ているんだろう」と立ち止まり、「この語り手はどうしてそれを知っているのか」と引っかかります。
よくある失敗
三人称一元視点なのに、ほかの人物の心の中が入り込む。 いちばんよくある視点のブレです。
- 直す前:クレイは目をしばたたいた。土魔法のはずだ。試験官は背筋が寒くなった。黒魔法適性者だと。
- 直したあと:クレイは目をしばたたいた。土魔法のはずだ。試験官の顔から血の気が引いた。彼は判定石から一歩下がった。
試験官の恐怖は、顔色と足の動きで見せます。クレイに見えるものだけを残せば、視点はまたクレイに戻ります。
一人称なのに、「僕」が知りえないことを書く。 一人称の小説でいちばん多いタブーです。「僕」がいない部屋、他人の心の中、先のことは、一人称の語り手には知りようがありません。
- 直す前:その頃、学院長室では学院長が、僕の名前が書かれた報告書を読みながら笑みを浮かべていた。
- 直したあと:翌朝、学院長が僕の名前をじきじきに口にしたという噂が寮に流れた。
どうしても見せたい場面なら、噂や人づてに聞いた話に変えるか、学院長の視点の場面を別に置きます。
人称が混ざる。 一人称で書いていたのに、一段落だけ名前で呼んでしまう失敗です。草稿を書き継いだときや、別の原稿から段落を移してきたときによく起きます。
- 直す前:僕は判定石から手を離せなかった。クレイは試験官を見上げた。
- 直したあと:僕は判定石から手を離せなかった。顔を上げて試験官を見た。
神視点の語り手が先のことを言ってしまう。 語り手が何でも知っているからといって、全部言う必要はありません。
- 直す前:この誤解がのちに学院に6つ目の塔を建てることになるとは、そのとき誰も知らなかった。
- 直したあと:記録官が名簿を開いた。黒魔法適性者の欄は、十年も空いたままだった。
直す前の文は結末を先に明かしています(6つ目の塔はあらすじの書き方の記事で例として決めた結末です)。直したあとの文は、先のことの代わりに、いまの場面の重さだけを見せます。「十年空いたまま」というのも、この記事の例として決めたことです。
脇役の語り手が、主人公の心の中を言い切る。 脇役の一人称では、「私」は主人公の頭の中をのぞけません。
- 直す前:クレイは心の中で、判定石がまた壊れたと思った。
- 直したあと:クレイは判定石を見下ろした。壊れた道具を見るときの顔だった。
TypeTakで視点を決めておく
TypeTakは、エージェントと一緒に書くAI執筆エディタです。原稿ごとに決める執筆スタイルにその作品の視点と人称を書いておくと、エージェントが草稿を書くときも、添削やフィードバックをするときも、その文体を基準にします。たとえば「クレイの一人称(僕)。クレイが見ていない場面と、他人の心の中は書かない。ほかの人物の視点は幕間の回だけで、冒頭に『― 名前』をつける」と書いておけば、次の話の草稿もその視点で続きます。ひとつの執筆スタイルを複数の原稿で使えるので、シリーズ全体の視点のルールを一か所に置いておくこともできます。
よくある質問
三人称一元視点と一人称の違いは何ですか?
どちらも、読者は視点人物が知っていることしか知りません。違うのは呼び方で、一人称は地の文で自分を「僕」や「私」と呼び、三人称一元視点は名前や「彼」で呼びます。そのため三人称一元視点では人物の口調に地の文が縛られず、視点人物の外見や、本人が気づいていない仕草も少し書けます。
神視点と三人称多元視点はどう違いますか?
三人称多元視点は、場面ごとに視点人物を一人ずつ替えていく書き方で、一つの場面の中では一人の心の中にしか入りません。神視点は、一つの場面の中でも何人もの心の中や先のことまで語れます。替わり目に印があるかどうかで見分けると簡単です。
三人称一元視点で心の声はどう書きますか?
視点人物の心の声は、地の文にそのまま溶かして書くのが一般的です。「クレイは目をしばたたいた。土魔法のはずだ。」のように、二文目を「」に入れなくても、視点人物の考えだと読めます。強調したい一言だけ()や「」に入れる書き方もありますが、多用すると一人称に近づきます。
Web小説は何人称で書くのがいいですか?
正解はありません。Web小説には一人称と、主人公一人についた三人称一元視点の作品が多く、主人公しか知らない情報が面白さの中心にあるジャンルほど、その傾向が強いようです。上のチェックリストで「読者が主人公と一緒に遅れて知るべきこと」が多いなら、この二つの視点がよく合います。
ひとつの作品で視点を替えてもいいですか?
かまいません。場面や話の境目で替え、替わる場所にはいつも同じ印(区切り行、小見出し、名前の表示)を使えば、読者は迷いません。避けたいのは、一つの場面の中で印もなく替わる視点のブレです。
一人称で書くときのタブーは何ですか?
「僕」が知りえないことを書くことです。「僕」がいない場所で起きたこと、他人の心の中、先のことは、一人称の語り手には書けません。どうしても必要なら、噂や人から聞いた話の形にするか、その人物の視点の場面を別に置きます。
参考資料
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実例でたどるウェブ小説連載
→韓国のウェブ小説『黒魔法使いと言われましたが、得意なのは土掘りだけです』1作を、TypeTakで構想から連載直前まで仕上げていく過程をそのままたどります。