献辞の書き方と例文30|「〇〇に捧ぐ」の意味、謝辞・あとがきとの違い

献辞(けんじ)とは、本の前のほうに置く短い言葉で、その本を誰かに捧げるものです。翻訳小説の扉のあとに一行だけある「母に」「Aに捧ぐ」がそれです。謝辞(しゃじ)は、本ができるまでに力を貸してくれた人たちへのお礼で、日本の小説ではたいてい、あとがきの最後に書かれます。

この記事では、献辞と謝辞を一緒に扱います。どちらも原稿を仕上げて本にする直前に考えるものだからです。献辞の例文を相手別に30、謝辞のテンプレートを3つ、それぞれが本のどこに入るか、書く前に気をつけたいことをまとめました。

ひと目でわかるポイント

  1. 献辞は一行から三行ほど。扉のあとに、1ページを使って置きます
  2. 献辞は一人か数人に本を捧げる言葉、謝辞は手伝ってくれた人たちへのお礼です
  3. 日本の小説では、謝辞は独立したページではなく、あとがきの中に書くことが多いです
  4. 新人賞の応募原稿には、献辞もあとがきも要りません

献辞と謝辞の違い

献辞 謝辞
何をするか 本を誰かに捧げる 手伝ってくれた人にお礼を言う
長さ 一行から短い段落 数行から数ページ
出てくる人 一人か数人 担当編集、イラストレーター、取材先、家族など
置く場所 扉のあと、目次の前 小説ならあとがきの中、ノンフィクションなら序文やあとがき
口調 個人的で、私的なことも多い あたたかく具体的。少しくだけてもよい

日本の本のどこに入るか

日本の単行本や文庫は、ふつう次の順で並びます。

  1. カバー・帯
  2. 見返し
  3. 扉(本扉)
  4. 献辞
  5. 口絵(ライトノベルなど)
  6. 目次
  7. 本文
  8. あとがき(謝辞はたいていここ)
  9. 解説(文庫など)
  10. 奥付

洋書では著作権表示のページが扉のすぐあとにあり、献辞はその次に来ます。日本の本では発行日や著者名、出版社などの情報を最後の奥付にまとめるので、献辞は扉のすぐあとに来ることが多くなります。どこに置くかは、最終的には出版社の判断です。個人出版なら自分で決められます。

新人賞に応募するなら、献辞もあとがきもまだ書かなくてかまいません。多くの賞が求めているのは、タイトル、梗概、本文です。梗概の書き方は小説のあらすじの書き方にまとめています。

献辞の書き方

  1. 誰に捧げるか決める。 最初に浮かんだ人が、たいていその人です。家族、パートナー、友人、恩師、亡くなった人がよく選ばれます。
  2. 短くする。 多くの献辞は一行です。「母に」だけでも立派な献辞になります。
  3. 本に合う口調を選ぶ。 重い文芸作品なら静かな一行、コメディならちょっとした冗談も似合います。
  4. どこまで明かすか決める。 イニシャルや、その人にしか分からない呼び名を使ってもかまいません。
  5. 相手の目で読み返す。 その人は喜ぶでしょうか。ほかの誰かを傷つけないでしょうか。

「〇〇に」「〇〇へ」「〇〇に捧ぐ」の違い

どれも献辞の書き方として使われます。「〇〇に」「〇〇へ」はやわらかく、手紙に近い響きです。「〇〇に捧ぐ」は文語の言い切りで、改まった重さがあります。亡くなった人に向けるなら「亡き〇〇に」「〇〇の思い出に」という書き方もあります。

献辞の例文30

この記事のために書いた例です。形を借りて、名前や中身は自分のものに入れ替えてください。

パートナーへ

パートナーへの献辞
どの稿も最後まで読んでくれた陽子に。寝落ちは二回だけでした。
コーヒーと、静けさと、待ってくれた時間に。妻へ。
Kに、いつも。
「いつまで書くの」と一度も聞かなかった達也へ。
机の隣の椅子を、居場所にしてくれた人に。

親へ

親への献辞
字を教えてくれた母に。止めるのはもう間に合いませんでした。
「できる」と言ったあと、図書館まで車を出してくれた父へ。
父と母に。
わたしが書いたものを全部とっておいてくれた母へ。
読んだら、泣かないふりをしたはずの父に。

子どもへ

子どもへの献辞
蓮へ。大きくなったら読んでください。
「もっと竜が出る話がいい」と言った葵に。はい、どうぞ。
この本に四年かかった理由である、子どもたちへ。
結末を最初に話して聞かせた、結衣に。
やればできると知ってほしくて。娘へ。

友人・仲間へ

友人・仲間への献辞
「とにかく書きなよ」と言い続けてくれた美咲に。
いちばんひどい稿を読んで、それでも残ってくれた合評会のみんなへ。
山の家を貸して、返せと一度も言わなかった健一へ。
いちばんの読者で、もっといい友だちの真由に。
毎週火曜の夜に集まる、あの店の常連たちへ。

亡き人へ

亡き人への献辞
この話のいちばん最初の形を語ってくれた祖母の思い出に。
亡き祖父・正一に捧ぐ。
どのページにも文句を言ったはずの、三郎さんへ(1958–2023)。
兄へ。書き終えたよ。
作文が苦手な生徒に、一度だけ満点をくれた佐藤先生の思い出に。

ユーモアのある献辞

ユーモアのある献辞
十二章の大半を、キーボードの上で過ごした猫に。
「どうせ終わらない」と言ったみんなへ。あと少しで当たりでした。
十年前の自分へ。言ったでしょう。
この本の大半が書かれた、終電の一本前の電車に。
古本屋の百円棚でこの本を手に取った人へ。百円分になりましたように。

謝辞の書き方

謝辞は、本ができるまでに関わった人たちへのお礼状です。読んでいて気持ちがいいのは、名前だけでなく、その人が何をしてくれたかまで書いてある謝辞です。

  1. まず一覧を作る。 書き始めを後押ししてくれた人、原稿を読んでくれた人、取材や調べものに答えてくれた人、本にしてくれた人、書いている間の生活を支えてくれた人を、順に思い出します。
  2. 名前をまとめる。 仕事で関わった人(担当編集、イラストレーター、デザイナー、校正者)、早くに読んでくれた人、取材先、家族と友人。たいていこの順で書き、いちばん個人的なお礼を最後に回します。
  3. その人が何をしたかを書く。 「〇〇さん、ありがとうございました」でも十分です。「真ん中がだれていると言ってくれた〇〇さん、その通りでした」のほうが伝わります。
  4. 長くしすぎない。 小説のあとがきなら、謝辞は数行から半ページほどが目安です。読者の知らない名前が延々と続くと、読み飛ばされます。
  5. 名前の字を確かめる。 印刷された名前の誤字は、あとになっていちばん悔やむ間違いです。

謝辞のテンプレート

商業出版の小説(あとがきの最後に)

商業出版の小説の謝辞(あとがき)
最後に、お礼を。

担当編集の[名前]さん。[何をしてくれたか:最初の稿で光るところを見つけてくれた、結末を変える質問をしてくれた]。ありがとうございました。

すてきなイラストを描いてくださった[イラストレーターの名前]先生。[何がうれしかったか]。

この本に関わってくださった[出版社名]のみなさま、デザイナーの[名前]さん、校正の[名前]さん。

[取材先や専門家]には、[テーマ]について教えていただきました。間違いがあれば、それはわたしの責任です。

そして、ここまで読んでくださったあなたに。また次の巻でお会いできますように。

個人出版・Kindle・同人誌

個人出版・Kindle・同人誌の謝辞
出版社がなくても、この本はたくさんの人に助けられてできました。

原稿を読んでくれた[校正・下読みをしてくれた人の名前]さん、[何をしてくれたか]。表紙を描いてくれた[名前]さん、[何がうれしかったか]。

書きかけの原稿を読んで、正直な感想をくれた[名前]さん。

[サークル、投稿サイト、SNSの仲間]のみなさん。[そこで何があったか]。

連載を追いかけてくれた方、予約してくれた方、表紙を広めてくれた方。この本が最後までできたのは、みなさんのおかげです。

最後に、[家族]へ。[何をしてくれたか]。

ノンフィクション

ノンフィクションの謝辞
本書は、多くの方のご協力によってできあがりました。

取材に応じてくださった[取材先]のみなさまには、[何を話してくれたか]を聞かせていただきました。[機関・資料館]には、[資料]を閲覧させていただきました。

[担当編集]さんと[出版社名]のみなさまには、[何をしてくれたか]でお世話になりました。

[同僚や専門家]には原稿を読んでいただき、[何を直してくれたか]をご指摘いただきました。それでも残る誤りは、すべて著者の責任です。

最後に、[家族]へ。あなたたちがいなければ、この本はありませんでした。

書く前に気をつけたいこと

献辞で全員にお礼を言う。 十五人の名前が並ぶ献辞は、場所を間違えた謝辞です。献辞は一人か数人に絞り、あとはあとがきに回します。

誰かを書き忘れる。 忘れられた人は、気づきます。書く前にメールや原稿のやりとりを見返して、一覧を作り直します。

ほかの人に分からない内輪の話を長々と書く。 内輪の冗談が一つなら、かわいげがあります。それが1ページ続くと、読者は置いていかれます。

捧げられたくないかもしれない人に捧げる。 付き合い始めたばかりの相手、疎遠になった家族、作中のモデルになった人などは、献辞があとで気まずくなることがあります。迷ったら本人に聞くか、イニシャルにします。

締め切りの前の晩に書く。 前の晩に書いた謝辞は、たいてい誰かを忘れます。原稿を書いているうちから一覧を作っておきます。

TypeTakで、最後のページを原稿と一緒に

TypeTakは、エージェントと一緒に書くAI執筆エディタです。本がほぼ仕上がった時に欲しいのは、献辞とあとがきが、別のファイルを探さなくても、正しい場所に入った状態で出ていくことです。

  • 献辞とあとがきも原稿のページにできる。 献辞とあとがきを原稿の中にそれぞれのページとして書いておけば、章と一緒に読む順に並びます。
  • 全部を一つのファイルで書き出せる。 書き出しで献辞とあとがきも含めてページを選び、一つのファイルにまとめて書き出します。必要なら、名前と連絡先を入れた表紙もつけられます。
  • お礼を言う人を書きながら集められる。 書いている間に、お礼を言いたい人の一覧をメモに足していけば、締め切りの時に誰かが抜け落ちません。

誰に、どんな言葉でお礼を言うかは、あなたが決めることです。Kindleで縦書きの本にする手順は、Kindleで小説を出版する方法にまとめています。

よくある質問

「献辞」の読み方は?

「けんじ」と読みます。謝辞は「しゃじ」です。

「〇〇に捧ぐ」とはどういう意味ですか?

「この本を〇〇にささげます」という意味の献辞の決まった言い方です。「捧ぐ」は「捧げる」の文語の形で、改まった響きがあります。亡くなった人や、とくに大切な人に向けて使われることが多いです。

献辞と謝辞の違いは何ですか?

献辞は、本を一人か数人に捧げる一、二行の言葉です。謝辞は、本ができるまでに手伝ってくれた人たちへのお礼で、日本の小説ではたいていあとがきの中に書きます。

献辞は本のどこに入れますか?

扉のあと、目次の前に、1ページを使って置くのが一般的です。洋書では著作権表示のページのあとですが、日本の本ではその情報が最後の奥付に入るので、扉のすぐあとになることが多いです。

献辞は必ず入れるものですか?

いいえ。献辞のない本はたくさんあります。とくに日本の小説では、翻訳小説に比べると献辞のある本は多くありません。思い浮かぶ人がいなければ、入れなくてかまいません。

新人賞の応募原稿に献辞やあとがきは必要ですか?

要りません。応募原稿はタイトル、梗概、本文があれば十分で、賞ごとの応募要項に従います。献辞とあとがきは、本になることが決まってから書きます。

論文の謝辞とはどう違いますか?

論文の謝辞は、指導教員や研究資金の提供元などに、決まった形でお礼を述べるものです。本の謝辞はもっと自由で、家族や読者へのお礼や、少しくだけた一言も入れられます。

参考資料

本の構成と各部の名前
日本エディタースクール編『標準 編集必携』(日本エディタースクール出版部)
洋書の各部の順序
The Chicago Manual of Style, 18th edition (University of Chicago Press, 2024), chapter 1

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